酒造りには、「偶然性」や「ゆらぎ」の要素が含まれる。
一方には、酒質として目指す方向性がありながら、
他方には、実際の醸造を行いながら都度直面し続ける不確実性がある。
醸造プロセスを要素分解し、最終アウトプットから逆算してブレイクダウンし、
再現性100%で醸造をプログラムすることは可能なのか?
そんなロジカルアプローチは、現場で酒造りに携わり数シーズン経るにつれ、
幻想として打ち砕かれていった。
年度や気候、環境とともに原料も変わる。
原料も微生物も変化する日本酒にとって、ゆらぎとどう付き合うかは重要だ。
「バタフライ・エフェクト」というものがある。
ブラジルの蝶の羽ばたきが、テキサスに竜巻を起こすか?
という例えが有名で、カオス論、複雑系などの文脈で語られる。
酒造りにおいては、一粒一粒の米の割れの状態に始まり、吸水歩合、麹の破精込み、醪の対流、温度ムラ、蔵内環境、素材成分、挙げればきりがない。
たとえば櫂入れの1回が、その後を左右する「かもしれない」。
因果関係を明確に追うことの難しさ、目に見えない微生物を扱う不確かさ。
絶えず不確実性と対峙している。
と同時に、常に可能性に開かれている。
合理的アプローチはもちろん非常に大切であるが、
同時に非科学的かもしれない願掛けやジンクス、目に見えないもの、
そんなものも意外と重視されるのもまた、事実なのである。
再生可能エネルギーで醸す日本酒も、物質的な側面を超越して、
微生物が呼応し、我々に働きかけてくるかもしれない。
そんな妄想を抱いている。
西堀酒造六代目蔵元:西堀哲也