「想定外の酒」というものができたりする。
「できちゃった酒」などと揶揄されたりもする。
これは、造り手からすると、あまり良しとされるものでは無い。
いかに、再現性を高く造れるかが技術だ、というのが現在でも主流の考えだ。
しかし、新たな手法や発見、技術は常に「想定外」から生まれてきた。
「革新の連続が伝統を紡ぐ」ともいわれる。
「守るためは、剣(攻め)なくして守れない」ともいわれる。
伝統産業である日本酒造業に身を置く私にとって、
「想定内」を担保し続ける伝統的なアプローチと同程度に重要なのが、
未来へ向けて試行・工夫・挑戦する攻めのアプローチだ。
現在を生きる当代の我々が、未来へ繋ぐべく挑戦を続けるのは責務であると考えている。
それは結果的に、常識外れのことになるかもしれない。
当蔵では現在、青色光照射発酵日本酒の試験醸造プロジェクトを行っている。
直近では、日経新聞様のWEB記事でも取り上げて頂いた。
↓
醸造中に青色光 栃木の西堀酒造、常識外れの酒造り(日経新聞WEB 2020/11/19)
哲学専攻の身である私にとって、付して頂いたタイトルに何か感じるものがあった。
「常識を疑う」というのは、哲学における出立点である。
とはいえ、何もないところから、いきなり常識を疑おうと思って発案したものではない。
今までタブーとされてきた、光を積極活用するなどという考えに至ったきっかけは、
多くの偶然の重なりであった。
昨年、海底熟成酒に取り組む機会があった。
このとき、波の振動が熟成促進に与える影響を知り、熟成促進の効果を確認した。
そして、自然界のエネルギーが与える影響に着目した。
波、音、光、このように物理的な現象に思いを馳せる中、
たまたま、数年前に導入した当蔵の透明タンクが存在することに気付いた。
当初、透明タンクは、醪の対流の確認を目的としていた。
そのため、光をあて続けるなどの用途は全く予定していなかった。
酒造りの工程の無数のパラメーターに、光要素を加えること、
これは「偶然のゆらぎ」を与えることそのものである。
※偶然性と酒造りについては別の機会で改めて書きたい
「想定外の酒」は、主に既存の手法の中で生まれることを指すが、
今回は、むしろ確度の高い想定すら出来ない「未知の酒」である。
現在、搾りが終わり、澱引きを行っている。
光をあてても変わらない?そんなことはなかった。
とても面白い感触である。
プロジェクト終了(11/29)まで残り10日程度であるが、
最終製品化までしっかり見届け、飲み比べをするまで楽しみだ。
西堀酒造六代目蔵元:西堀哲也