「多様性(Diversity)」という言葉があります。
昨今では、人種・言語だけでなく、価値観や文化の違いといった広範囲なものが定義されています。
多様であるという事実の中で、それぞれの差異や違いをお互いに尊重・理解していく姿勢こそが重要であるといわれます。
今、日本酒の輸出量は年々増加しています。
直近2020年度の清酒輸出総額は、約241億円(昨対比103.1%)となっており、11年連続過去最高となっています。
よく言われるように、フランスはワイン輸出は約1兆円、イタリアのワイン輸出は約6000億円とも言われ、
同じ醸造酒としての伸びしろはまだまだあることが分かります。
現在もその9割以上が国内消費である日本酒。
今後、日本酒という存在を海外に発信していくにあたって、より一層「多様性(Diversity)」を意識した姿勢が必要になっていくものと思われます。
一例として、日本酒の品質評価には、伝統的な日本人の基準・感覚があります。
国内で行われる従来の日本酒鑑評会は、基本的に「減点方式」の考え方です。
ある特定のオフフレーバーがあるとわかれば、一発アウト、そういう審査基準が今でも通例です。
しかし、ワインの世界では「加点方式」であるといわれ、そのお酒の個性・特徴を評価していく考え方があります。
日本国内では”一発アウト”な酒質のお酒であっても、海外で開催される日本酒コンテストでは、そのバイアスを取り外した上で、審査が行われます。
これは、どちらも考え方・価値観の違いそのものです。
ここで、「日本式にすべて合わせなければいけない!」というのは、”ローカル”な1つの価値観を”ユニバーサル(普遍的)”に押しつけることであって、多様性を理解しているとはいえません。
世の中には、様々な差異が存在します。
「その出自、環境、風土に由来する差異の成り立ちを見ること」
これが多様性を理解する上で大事であり、やや難しく言えば「他者性の認識」だと思います。
同じ日本酒でも、国によって好みは著しく変わったりします。
フレッシュな酒質を好む地域もあれば、熟成感ある酒質を好む地域もあります。
「マーケット・イン開発」という言葉で括られてしまうこともありますが、日本酒を日本文化産品の1つとして今後海外に展開していく上では、まずその国・地域の歴史・文化・伝統を尊重することが第一で、その結果として、現地に合わせた商品開発が時に要請されてくる、そういうことだと思います。
これは、海外に限った話ではありません。
たとえば、日本酒の世界でも「酒屋万流」という言葉があるように、1つとして同じ歴史や環境・風土の酒蔵であるものはありません。
各々が辿ってきた系譜の中で、さまざまな方向性や考え方、こだわりや想いがそれぞれ彩られており、全国に約1400蔵ある酒蔵には、1400通りの考え方があります。
日本酒も、今現在の商品だけでなく、その蔵の成り立ちや歴史、背景を紐解いてみると、とても面白いものなのです。
「日本酒のユネスコ登録」を目標の1つとして目指すSAKE RE100では、
歴史や文化を見ていくことは、これからますます重要であると感じています。
西堀酒造六代目蔵元:西堀哲也