以前、こちらの記事で夏場の酒蔵風景、「呑み切り」についてご紹介しました。
夏を越すひやおろし出荷前の時期には、熟成度合いやタンクの状態を見極め、必要に応じてブレンド(調合)作業を行っていきます。

必須となるのが、「利き酒」なのですが、大きく分けて2種類の方法があることはご存知でしょうか。
一般的に、利き酒をする際には「分析型評価」と「官能型評価」の2種類、つまり客観的観点と主観的観点を相互に横断しながら、酒質のチェックを行っていきます。


↑飲食店などで提供される利き酒セット

分析型評価では、製造工程や貯蔵管理上の良し悪しをチェックします。
好みである、美味しいと思うかどうかというよりも、製造管理上に欠陥が無いか等、製造現場にフィードバックされる方向性です。

一方、官能型評価では、市場のトレンドや酒の個性・好みを捉えながら、利き酒をします。
利き酒をする人の経験値や試す本数にも左右され、時代とともに嗜好は変化していくため、明確な正解が無い難しい世界です。
実際には、製造上の欠点チェックの観点も間接的に入り組んでいたりするため、とても複雑です。


↑日本酒の審査で使われる審査カード、官能評価表の例(出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/84/12/84_12_818/_pdf/-char/ja)

日本酒の瓶の裏ラベルを見ると、精米歩合やアルコール度数、日本酒度や酸度など、数値表示があるものがあります。
現実は、その分析値で非常に大まかな傾向は掴むことができますが、最終的には「実際に味わってみないとわからない」のが面白いところです。

現在、最新機器の味覚センサーや香りの分析装置などが酒の分析機器で登場しています。
しかし、まだまだあらゆる微量で複雑な成分たちで構成される味わいを一挙に把握する「香り・味わい」の感覚は、機械ではなく人間に軍配が上がっているようです。

今、人工知能(AI)の研究が盛んに行われており、つい先日には日本で初めての商用量子コンピュータが設置されています。
日本初・世界3カ国目のゲート型量子コンピュータを川崎市に設置へ ~IBM Quantum System One。IBM・東大の提携

日本酒は、ただでさえ非常に繊細に味わいが変化します。
温度、酒器、もっといえば空間でも味覚が変化します。

味わいや香りが完全に数値化できる未来が来るかも知れませんが、
まだまだ「己の舌で利き、味わう」人間の力が偉大で信頼もおけると個人的に感じています。

秋口に差し掛かりますが、これから季節のお酒ひやおろしが、各蔵から出てくる時期です。
ぜひ、色々利き酒し、実際に味わい、楽しみんでみてはいかがでしょうか。

西堀酒造六代目蔵元:西堀哲也