当蔵にはこの時期、酒蔵見学でお客様は毎週いらっしゃいます。
蔵の中に入ったとき、「お酒の香りがしますね」と皆さんおっしゃいます。
香りを司るのは、主に酵母です。
酵母は、多くの種類があり、青りんごのような香り、バナナのような香り、マスカットのような香り、など果実に例えられることが多いものです。
もちろん、純粋にはっきりとわかりやすい香りがするものばかりではありません。
発酵する際の温度管理をはじめ、さまざまな要素で香りは生成されます。
香りから、何の酵母を使っているか判定できるのは、プロでも難しいことは多々あります。
製造者としての利き酒の言葉・観点と、飲み手の評価や感覚がズレてくることは永らく認識されてきました。
また、日本語特有の万能な「曖昧さ」ゆえに、言語表現の乏しさもありました。
最近、テキストマイニングという手法を使って、海外のプロの審査員が日本酒を飲んだ際の香りや味の表現を大量に集めて解析する取り組みががでてきました。
最近では、AIを使った解析をする企業も出てきています。
下記は、国税庁の公開資料にもなっております。
WordCloudという手法で、テイスティングコメントを可視化して表現されています。
テキストマイニングする元のデータは、IWCの審査短評です。
利き酒をする際、香りで分かる酵母は分かるのですが、見てお分かりの通り混在するのが普通です。
ちなみに、香りと味で分けて考える場合、味を決めるのは主に麹になります。
最近の技術である、AIが人間の五感すべてに代替するのはまだまだ先と言われています。
たとえば、「香り」や「味」といった領域は、属人的な要素も含まれるもので、受け手(人間)側もどんな食事文化で育ってきたかなど、評価そのものが絶対化できない部分もあります。
最新技術でも、何千・何万種類もの微小な成分を複合的に感じ取る利き酒・官能評価には、機械は対応できないようです。
ともすると精密なセンサー自体を開発・改良する方向に向きがちですが、香りや味といった領域については、この事例のように人間をセンサーとして活用する発想で、”属人的”な審査コメントを大量に解析する方法も有用だと思います。
そしてこの発想は、あらゆる暗黙知の論理化(言語化)を考える上で、有効だと思い知らされるこの頃です。
西堀酒造六代目蔵元:西堀哲也